2023年2月より公開されている、映画『エゴイスト』。エゴイストとは、主演に鈴木亮平さん、鈴木さんの相手役に宮沢氷魚さんという豪華な顔ぶれで、エッセイスト高山真さんの自伝的小説が実写化された作品です。宮沢さんが鈴木さんの”相手役”を演じるということでお気づきの方も多いかと思いますが、本作は同性愛を描いた繊細で切ない恋物語。まわりからは決して理解されない、許容されない自分たちの関係性は、エゴなのか…観る者の心をも揺さぶる衝撃の展開を見せる禁断の作品に、話題と注目が集まっています。昨今何かと取り沙汰されるジェンダー問題にも直結する映画『エゴイスト』から、私たちが学べるものはあるのでしょうか。
映画『エゴイスト』気になるあらすじ
https://www.youtube.com/watch?v=dY7I0XzjQoEハイブランドの服に身を包み、虚勢を張って生きるファッション誌の編集者・浩輔(演・鈴木亮平)。幼くして母を失い、鬱屈とした思春期を過ごしてきた浩輔でしたが、美しきパーソナルトレーナーの龍太(演・宮沢氷魚)と出会い惹かれ合っていきます。パートナーとなった2人は、時にシングルマザーである龍太の母を交えながらも幸せで楽しい時間を共に過ごしますが、恋愛関係にあることを打ち明けられず、家族にさえも嘘をつきながら関係を続けていました。母を支える龍太をサポートしながら過ごす幸せな時間は、誰かを愛する喜びを知らなかった浩輔にとってかけがえのないものでした。しかし、そんな2人の関係が断ち切られてしまう出来事に遭遇するのです。そして、浩輔が自分自身に対して抱き続けてきた根源的な問いが、物語を急展開に向かわせます。
鈴木亮平・宮沢氷魚が持つ作品への熱い思いとは
鈴木亮平:セクシュアリティはグラデーション
鈴木さんが本作への出演を承諾したのは、浩輔がゲイであるかどうかというよりも、浩輔という1人の人間に共感できたことが決め手だったそう。とはいっても、自分にはないゲイという性的志向をリアルに演じるため、LGBTQ+に関する勉強を重ねて、撮影に挑んだのだとか。鈴木さんは、セクシュアリティはグラデーションだと語り、「ゲイはこうである」と決まった形は存在しないと強い思いを持っているそう。自分がゲイではないことが凶と出て、性的マイノリティに対する偏見や差別を助長する表現にならないよう、気を配りながら浩輔を演じ切ったといいます。映画を観た当事者の人たちが、自分たちと重ね合わせられるような映画にしたいと、熱い思いを語りました。
宮沢氷魚:「愛」は永遠の課題
宮沢さんは、なんと本作でオファーを受けたのが2回目だったそう。1回目のオファーがあったときには映画が実現しなかったそうですが、時を経て今回のタイミングで2回目のオファーを受け、運命を感じたといいます。宮沢さんもまた鈴木さん同様、龍太がゲイかどうかはそれほど重要視しておらず、龍太がたまたま惹かれ合い大切に思ってきた浩輔というパートナーとの関係を、純粋に「美しい」と感じ、物語の持つエネルギーに惚れ込んだのだそう。相手が異性であれ、同性であれ、そこに生まれる「愛」とは自分の人生や周りの人にどう影響しているのか…そこが永遠の課題であると、強い思いを語りました。
映画『エゴイスト』から学ぶジェンダー問題
国レベルで否定してはいけない問題
メガホンを取った松永大司監督はジェンダー問題について、「国の首相や元秘書官が、同性婚や性的マイノリティに対して差別的発言をしている今の日本では、まだまだLGBTQ+に対する理解は深まらない」と語りました。これに対しキャストの宮沢さんが、「そのような政治的発言が出たことによって、たくさんの人が声をあげた。これは今までの日本の歴史を見ても、大きなステップであり、日本の未来に希望が見える。そこにもっと注目が集まってもいいんじゃないか」とコメント。
LGBTQ+を”当たり前の存在”にしたい
鈴木さんは性的マイノリティに対して、「性的云々ではなく、人権問題だ」と前置きした上で、国が法的にLGBTQ+の人たちに対し「あなたたちは当たり前の存在だ」と明言することで、当事者の生きやすさだけでなく、社会の意識ごと変わっていくはずだと語りました。
インティマシーコレオグラファーが撮影に参加
セックスシーンなどの動きや所作を監修する、インティマシーコレオグラファーという役割を持った専門家が撮影に参加。それまで、「当事者ではない自分がゲイを演じることで、偏見や固定観念が世に広まってしまったら…」という不安が拭えなかったという主演の鈴木さんでしたが、インティマシーコレオグラファーのサポートにより「これだけ万全の体制が整っていれば、ゲイコミュニティーに届けられる作品になる」と確信したのだそう。
ゲイ仲間の飲み会シーンは”当事者”を起用
鈴木さん演じる浩輔が、居酒屋でゲイ仲間と飲み会を楽しむシーンがあるという本作。実はこのシーンでゲイ仲間を演じているのは、俳優ではなく、”当事者”。そう、本物のゲイを起用しているんです。さらには、両親にカミングアウトしていない人もいるのだそう。そんな状況で、どうして彼らは出演を決めたのでしょうか?出演を快諾した4人の”当事者”たちは、みな「本作への出演で何かが変われば」という思いを抱いて、何万人もの人が目にする映画に自身を映し出す決意をしたといいます。劇中では、「彼氏と婚姻届けを書いた」「売り専(ゲイ専用風俗)で働いている」など、自身のエピソードを赤裸々に語る場面もあったという彼らは、演技の経験はほとんどなし。監督からは「はい、とりあえず何でもいいから喋ってみて」とだけ言われ、まるで普通の飲み会かのように、4時間ほど喋り続けたのだそうですよ。
まとめ
ジェンダー問題だけではなく、人と人との間に生まれる「愛」という形なき大きなものが、私たちの人生にもたらす影響、そして私たちだけでなく家族や友人、大切な人たちに手向けられた愛がどんなふうに映るのか…そんな奥深くまで考えさせられる、観る人の心の奥まで締め付けるような作品になっています。同性愛者を演じた鈴木さんと宮沢さんの、儚く美しい「エゴイスティック」な愛にも要注目です。